何気ない時間

体験談

「今度、うちで集まらない?」

そんな一言を口にしたのは、いつだっただろう。

離婚してからの数年間、人を家に招くなんて考えたこともなかった。

誰かと一緒にいる時間より、一人でいる時間のほうが気楽だったし、傷つくこともない。

でも、日本酒会で知り合った仲間たちと過ごす時間は、不思議と居心地が良かった。

気を遣いすぎることもなく、お互いに無理をすることもない。

「また飲みに行こう。」

そんな約束が、少しずつ増えていった。

ある日、思い切って自宅に招いてみた。

特別なおもてなしをしたわけじゃない。

スーパーで買った食材を並べて、お酒を飲みながら、ただ他愛もない話をする。

仕事のこと、趣味のこと、最近あった出来事

笑ったり、ツッコんだり、ときには真面目な話になったり。

気づけば時間なんてあっという間に過ぎていた。

帰る頃には、誰かがこう言った。

「またやろう。」

その言葉が、とても嬉しかった。

昔の自分なら、こんな時間を想像することすらできなかったと思う。

離婚した直後は、人と関わること自体が怖かった。

裏切られるかもしれない。

また傷つくかもしれない。

そんな気持ちがどこかに残っていた。

だから、自分から距離を置いていた。

でも、この仲間たちは違った。

無理に励ますこともない。

過去を詮索することもない。

ただ、その場を一緒に楽しんでくれた。

それだけで十分だった。

人とのつながりは、何か特別な出来事で生まれるものじゃない。

一緒に笑って、一緒に食事をして、同じ時間を過ごす。

そんな何気ない積み重ねが、少しずつ心の距離を縮めてくれる。

あの頃の僕は、そのことを忘れていたのかもしれない。

帰り際に「また来月ね。」と言って帰っていく仲間たちを見送りながら、不思議な気持ちになった。

次に会う約束がある。

それを楽しみにしている自分がいる。

そんな当たり前のことが、少し前の自分には想像もできなかった。

人生が大きく変わったわけではない。

悩みがすべてなくなったわけでもない。

それでも、心のどこかで確かに感じていた。

一人で抱え込んでいた頃より、少しだけ前に進めている。

そう思えたのは、仲間と過ごした何気ない時間のおかげだった。

気づけば僕は、次にみんなと会える日を楽しみにしていた。

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